聖バレンタインの“怪”演。予測不能の没入型ライブ

2月某日、世間がチョコレートの甘い香りに包まれる中、とある会場だけは異様な雰囲気に包まれていた。イラストレーター・チェリ藻氏が主催する単独イベントだ。開演の合図とともに現れたのは、鮮烈なグリーンのボディに身を包んだ怪人・チェリ藻。
その造形力は特撮現場から抜け出してきたかのようなクオリティだ。
――イベント、大変なカオスでした。寸劇からはじまり、撮影会とチェキ、そして最後は客席に「ゴディバ」のチョコを投げ込んだり……。
チェリ藻:
「君の驚く顔が見たい」というのが怪人としての活動コンセプトなんですよ。
――あ、めっちゃ普通に喋るんですね。
怪人って本来、人を脅かす存在じゃないですか。でも「驚く」って、サプライズで喜ぶという意味もある。二重の意味を持たせているんです。

過去には飴を配って「これを舐めると君たちも怪人になるよ」みたいな演出もしてました。お客さんの安全圏を脅かせると楽しいんじゃないかなって。「客席で安全に見ていられると思うなよ?」と(笑)。ただ見ているだけじゃなくて、自分も当事者になるような体験を作りたいんです。
チョコに関しては、Amazonで「個数が入っていて、美味しくてもらって一番嬉しいやつ」を探したらゴディバでした。

――あの禍々しい見た目から、あまりにも実務的で優しいチョイスですね(笑)。
チェリ藻:
やっぱりギャップを見せたいんですよね。見た目はこれだけいかついけど、中身はぶっちゃけトーク全開で人間臭い。その方が、キャラクターとして演じるよりも「本当の自分」に近いんです。
あと、ステージ上でのパフォーマンスを支えてくれている「戦闘員01号」という相棒がいるんですが、彼との掛け合いも重要で。
――「01号」さん、動きのキレが凄かったですね。
チェリ藻:
僕がステージショーをやるって決まった時に、怪人一人じゃ戦えないしショーにならないから、急遽用意したキャラクターで。
彼は身体能力が高いので、アクションパートを一手に引き受けてもらっています。彼がいるからこそ、僕は怪人として自由に振る舞える。特撮界隈って、イベントの最中はキャラが喋らないのが普通なんですよ。でも僕はベラベラ喋るし、アドリブも入れる。その「違和感」も含めて楽しんでもらいたいですね。



「ヒーローは嘘つきだ」――怪人が語る“正直”な生き様
――そもそも、なぜ「ヒーロー」ではなく「怪人」だったのでしょうか? ご自身でデザインし、アクターとして活動するスタイルは非常に珍しいと思います。昨今のVTuber的なアプローチとも違いますよね。
チェリ藻:
そうですね。VTuber文化は面白いと思う一方で、トップランナーには女性が多くて、タレント性が求められる世界だと感じていました。自分にはその「キラキラしたタレント活動」はできないし、やりたくないなと。
もともと特撮オタクだったわけでもないんですよ。活動のルーツは、不本意な形で入った大学時代にあります。人生を変えたくて、大学で一番めちゃくちゃな「特撮ヒーローを自作・運営するサークル」に入ったのがきっかけでした。
そこでヒーロー役もやったんですけど、違和感があったんです。「ヒーローって嘘つきだな」って。

――嘘つき、ですか?
チェリ藻:
戦うためにわざわざ敵を用意して、綺麗事しか言わないじゃないですか。本当に世界を救いたいならそんなことしない。「それってただ目立ちたいだけなんじゃないの?」って思っちゃったんです。
対して怪人は欲望に正直です。何も隠さない。僕自身の人生も、決して正攻法ではなかったし、ひねくれた「邪道」な生き方をしてきました。だから、ヒーローよりも怪人の方が遥かに近く、正直な存在だと思ったんです。
――なるほど。それでご自身だけの怪人をデザインされたと。
チェリ藻:
多くのクリエイターがアバターという「理想の皮」を被っていますが、僕の場合、この怪人の姿は皮じゃなくて「中身」そのものなんです。生まれ持った変えられない人間の肉体よりも、自分でデザインしたこの姿の方が「本当の自分」だという感覚があります。

イラストレーターって、作品は評価されるけど作家自身の人間性まではなかなか届かないじゃないですか。でも、芸能人が飲食店をやると繁盛するように、作家自身にファンがつけば、経済的にも活動的にも強い。イラストレーターとしての「設計図(画力)」があったからこそ、自分を受肉させ、最強のアイコンとして機能させることができたんだと思います。
――特にデザインでこだわっているポイントはありますか? 頭部の角が片方折れているのが印象的ですが。
チェリ藻:
あれは僕の人生そのものです。「人としてはもう、心が折れてしまった」という過去の象徴ですね。
不本意な進路、社会への適合の難しさ……これまでの人生で「自分は何か欠けている」とずっと思ってきました。でも、創作の角だけは折れずに伸び続けている。
折れた角の断面をよく見てもらうと、クリアパーツのように輝いているんです。人生の角が折れたからこそ、僕は怪人になれた。この傷こそが輝きなんです。いつか怪人として天下を取って成功した時、この角は水晶のように美しく再生するかもしれません。
憧れの『ロックマンゼロ』デザイナー・中山徹氏との約束
――イラストレーターとしての活動についても伺わせてください。画風を拝見すると、カプコンデザインの系譜を感じます。
チェリ藻:
ルーツは『ロックマンゼロ』です。
小学生の頃、あのパッケージイラストに一目惚れして、親に「ポケモン買ってあげるから友達作りなさい」って言われたのに、「こっちがいい!」ってロックマンゼロを買ってもらったんです。それからずっと、パッケージの模写をしていました。
実は大学生の時、コミケでキャラクターデザインの中山徹さんのスペースに行く機会があったんです。
――ご本人に会えたんですね!
チェリ藻:
当時の中山さんはスケッチブックへのドローイングなどはされていなかったんですが、落ち込む僕にこう言ってくれたんです。「もし君が将来、自分の同人誌を出すことがあったら。その時は、僕が寄稿することはあるかもね」って。
――まるで漫画のような展開ですね……。
チェリ藻:
社交辞令だったかもしれないけど、僕はそれを約束として受け取りました。「本を出さなきゃ」って。
それから必死に絵を描き続けました。練習のために、あえて自分が一番苦手で嫌いな色だった「緑」をテーマにしたオリジナルキャラクター「緑子ちゃん」を作って、何年も描き続けたんです。
「緑子ちゃん」は、僕が絵描きとして成長するための実験台であり、戦友でした。

――そして10年後、その約束はどうなったのですか?
チェリ藻:
「緑子ちゃん」の10周年記念イラスト集を作る時に、意を決して中山さんに連絡しました。「あの時のことを覚えていますか?」と。
そしたら約束を覚えていてくださって……本当に寄稿してくれたんです。しかも、中山さんの画風でアレンジされた、最高にクールな緑子ちゃんを。
自分の描いた設計図が、憧れの人に届いた瞬間でした。中山さんの絵柄、特にカプコン時代のあの「スタイリッシュなライン」は、僕の怪人デザインにも色濃く受け継がれています。

「不人気色」で天下を獲る。怪人のデザイン戦略
――チェリ藻さんのメインカラーである「緑」には、並々ならぬ執念を感じます。
チェリ藻:
緑って戦隊モノでもセンターを取れない「不人気色」なんですよ。天下を取りに行く人が使う色じゃない。パッと思いつく主役級のキャラも少ないですよね。だからこそこの色で主役になりたいんです。「不人気色で天下を取る」って、最高に怪人らしくないですか?
ただ緑色にするだけじゃ、背景に埋もれちゃうんです。だから厳密に言うと、僕のカラーリングは緑と赤の補色関係を意識しています。そしてベースは黒。面積としては黒が多いのに、なぜか「緑のキャラ」として強烈に認識されるよう、配色バランスは徹底的に計算しています。これはイラストレーターとしての色彩設計のスキルが活きている部分ですね。
――造形についても伺いたいです。これだけのクオリティのものを、どうやって作り上げているんですか?
チェリ藻:
実はこの体、まだ完成形じゃないんですよ。初期に作ったパーツと、後から改修したパーツが混ざり合った「パッチワーク」なんです。いわば「Ver.1.5」みたいな状態。
自分の中では「折衷案」のデザインなんですけど、それでもこれだけ評価してもらえている。だから、「本気でゼロからデザインし直して100%の出力で作ったら、もっとすごいことになるぞ」という確信があります。
――現状でも凄まじい迫力ですが、まだ「変身」を残していると?
チェリ藻:
そうです。今はまだ継ぎ接ぎの体で戦っている。それでも「負ける気がしない」と言えるレベルまでは持ってこれました。
もし今後、壁にぶつかったり、あるいは怪人として一時代を築けた時には、全てを刷新した「完全体」になるかもしれません。その時は、折れた角もクリアパーツになって輝いているかもしれないですね。今の姿は、そこに至るまでの進化の途中経過なんです。
そうやって常に「次はどうしようか」と企んでいる時が一番楽しいですね。何かを企画していないと身体が動かなくなっちゃう、回遊魚みたいな生き物なんです、僕は。
メディバンペイントへの愛と、これからの野望
――クリエイションの道具へのこだわりはありますか?
チェリ藻:
僕はもう完全に「メディバンペイント(MediBang Paint)」一筋です。無料ソフトですけど、有料のブラシやフォントを使いたくてちゃんと課金もしてます(笑)。
――それは(笑)。この記事を通してアピールしましょう。
チェリ藻:
ぜひお願いします! メディバンペイント公式さん、見てますか!?

いつかコミケの企業ブースに立ちたいんですよ。
もしメディバンさんがブース出すなら、僕、賑やかしに行きますから! 看板怪人として立たせてください。
――最後に、今後の野望をお聞かせください。
チェリ藻:
天下を取りたいです。東京ドームシティのような大きなステージでショーがしたい。
「怪人」の可能性をもっと広げたいですね。自分のソフビ人形も出したい。予算さえあれば、遊園地だって作りたいくらいです(笑)。それでもお化け屋敷のプロデュースは去年実現しました。
常に何かを企んでいないと、身体が動かなくなっちゃうんですよ。これからも「君の驚く顔が見たい」ので、あっと言わせるようなことを仕掛けていきます。次はどこに現れるか、楽しみにしていてください。

怪人・チェリ藻氏の最新情報は、公式X(旧Twitter)で随時発信中。
神出鬼没な怪人の出現を見逃すな!
公式サイト:https://sites.google.com/view/chelicot-kaijin
グッズ販売:https://chelicot.booth.pm/
怪人グッズ販売:https://chelicotkaijin.booth.pm/